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マウスピース治療
寝ている間に下あごを4~7ミリ前に出して、舌根を引き上げ気道を広げます。スリープスプリントともいいます。
保険診療で作るマウスピース装着の効果
いびきには、いびきだけの単純性いびきと、閉塞性睡眠時無呼吸の症状としてのいびきがあります。30代以上で、パートナーからいびきを指摘される場合は、ます閉塞性睡眠時無呼吸症の可能性がとても高いです。現在無くても将来的には、加齢や肥満によりまず閉塞性睡眠時無呼吸になると思われます。また閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんでいびきが無いひとはありません。
いびきの大きな原因は肥満です。肥満は外に向かって肥大するだけでなく、舌も大きくなり又口蓋垂や軟口蓋にも脂肪が増し、就寝時に舌やのどちんこ(口蓋垂)やその周囲の軟口蓋が重力により落ちてきて、のどの奥を塞ぎ、空気の通りが狭くなり、閉塞性睡眠時無呼吸となり、いびき症状を呈します。いびきの原因の閉塞性睡眠時無呼吸の治療のためにマウスピースを作成します。
このマウスピースを、この分野でもっとも実績のある東京医科歯科大学では「スリープスプリント」と呼んでいます(海外ではMAS)。スリープスプリントを装着することで、寝ている間に下あごが4~7ミリ前に出されます。それによって舌根を引き上げられるので気道が拡がり(気道は下顎を前に出すことで横にい拡がります)、のどの空気の通りが良くなっていびきが緩和されるのです。 スリープスプリントはいびきに対して非常に効果があることがわかっています。スリープスプリントは簡便に作成でき、手術の必要がありませんから患者様にとってお手軽です。入れ歯よりも小さいですから携帯にも便利で、旅行にも持っていけます。 材質は、歯ぎしりや矯正用マウスピースと全く同じ高分子化合物でできているので、透明で目立たず、他の方からいびきの治療をしていることに気づかれません(パートナーの方には、歯ぎしり用のマウスピースと間違われることが多いようです)。
使用する場合は、スリープスプリントを装着したまま横向きに寝ていただきます。 歯に固定するので、20本ぐらい歯がなければ入れられません。 また、上の歯より下の歯が、8ミリ以上前に出せる必要があります。CPAPは装着して寝ると不快感を感じる人も少なくありません。CPAPをやめてしまうかたもかなりいます。CPAP治療が、閉塞性睡眠時無呼吸の治療のゴールドスタンダードとよばれていますが、どうしてもCPAPはダメという方に対しては、代替療法として当院ではマウスピース(スリープスプリント)をお勧めしています。当院のデータによると、マウスピースで睡眠時無呼吸の程度を半分以下に抑えられます。ですから、中軽度のいびきの方であればマウスピースはCPAPと同程度の効果があると考えてよいでしょう。
慶友銀座クリニックではマウスピースを保険診療で作成するために睡眠時無呼吸専門の歯科も開設しています。マウスピースを歯科で作成し、その効果を耳鼻科医が判定することもできるのです。 歯科であれば保険適用で2万円程度(3割負担の場合:他に調整費用や検査費用等)の自己負担で作成できます。また他の医療機関からのマウスピースの作成を受け付けております。他の病院で睡眠時無呼吸と診断された方は、そのときのデータか、紹介状をお持ちいただければ作成可能な場合もあります。なお歯科は「予約制」です。まずはお電話下さい。精巧なマウスピースを作成しますので、歯石除去や虫歯の治療が済んでからの作成となります。
マウスピースの種類
睡眠時無呼吸用マウスピース自体の欠点・副作用は、CPAPに比べて効果が限定的(CPAPですと低呼吸無呼吸指数(AHI)が90%程改善されますが、マウスピースだと半分程度の改善)。あごの痛みを生じる可能性があり、歯科用インプラント埋入した方は、インプラント埋入後数年間はマウスピースができない。虫歯で歯の治療をした場合は、再作成の必要性があるという欠点・副作用があります。海外ではマウスピース自体が50万円ほどする場合があり、手術やCPAP費用と比べても一番高くなることがあり、歯科自体の費用が特に米国ではとても高いために、費用が一番のネックともいわれています。
睡眠時無呼吸用マウスピースには、保険で作成可能な上下顎一体型と、自由診療でしか作成できない上下顎分離型があります。上下顎分離型睡眠時無呼吸用マウスピースは、保険診療で認めれられていないために保険外(自由診療)となります。
【上下顎分離型の利点(一体型の欠点を含めて)】
Ⅰ 一体型に比べて圧迫感や閉塞感を感じにくい。
Ⅱ 一体型は歯並びが悪い場合は、装着時の痛みや違和感が強く出やすいが、分離型は出にくい。
Ⅲ 一体型に比べて鼻呼吸の影響(風邪・花粉症・慢性鼻炎・鼻中隔弯曲症等)を受けにくい。
Ⅳ 一体型は顎の位置を一端固定すると調整はきかないが、調整が可能である。
Ⅴ 一体型に比べ、材質の性格上破損や劣化等を起こしにくい。また厚いので壊れにくい。分離型は5年ほど使用できる。メーカーにより30ヶ月前後の保証があることがある。
Ⅵ 一体型は、構造上の性格上開口により下顎部のスプリントが外れやすいが、分離型は外れにくい。
Ⅶ 分離型は装着しても、会話や飲水が可能である。特に夜間に就寝時に会話(ピロートーク)が必要な場合は分離型が必要である。また特に老人の場合、夜間の口の渇き(口渇)がある場合、分離型は装着していても水は簡単に飲める。
Ⅷ 日本以外では、分離型は一体型よりも用いられており、海外の研究では分離型を用いることが多い。これは日本の歯科医師及は海外の歯科医師に比べて、一体型の調整が技能的に可能であるということが大いに関係する(まず米国の歯科医師は一体型の下顎位置の再調整はできない)。しかし海外ではほとんど分離型が使われているため、多くの知見があり、最新の研究データーを元に評価を医師がしやすい。
Ⅸ 歯科医師にとっては、分離型は歯形をとるだけで、調整も簡単なので、作成しやすい。特に米国の歯科医師は、技術的な面で日本の歯科医師に比べて、特に技工面で劣るので、分離型を作成を好む。
Ⅹ 米国で作成される一体型(かなり特別で、ほとんどつくられていない)は、構造上日本でつくられる一体型に比べて薄くつくることができるが、下顎の位置が調整できない。作成したものを比較すると、日本でつくられる調整可能タイプの一体型のほうが、元々の技術面の優位性からか米国タイプよりも薄い。以上のことから、米国では分離型がつくられる。
【上下顎分離型の欠点及び副作用】
Ⅰ 分離型は保険対象外であり、値段が高い(約20万円:作成前後の検査等含む)。素材や、作成システム(メーカー指定の技工所で作成・場合により海外で作成)、特許等によるものである。
Ⅱ 値段が高いので、作り替えるときに患者様側が躊躇する。歯科治療を行った後、再作成する場合があるが、値段的に躊躇してしまう。また破損時にも、再作成の必要があるが患者様側が躊躇してしまう。分離型では外内装2層構造のプラスティック樹脂でできていて、虫歯などで歯の形態が変わった場合でも、内装のプラスチック樹脂の張り替え修理が可能であるが、有償修理の場合は3万円程かかり費用負担が、大きい。
Ⅲ 分離型は一体的に比べて、サイズが大きい(大きくて厚い)。
Ⅲ-1
分離型は構造上、下顎部分にひんじ(突起部)及び調整部分があり、横の部分が大きくなる。
Ⅲ-2
そもそも分離型は欧米人の為に、欧米のメーカーが作成したもので、モデル自体が口腔内が大きい欧米人用(欧米人は元々狩猟民族に想定して作成されておりなので顎が発達しているため、口腔内が大きい)、どうしても全体的に大きくなる。米国の特にアジア系の対象患者は、分離型は大きくてうまく使えないという意見は多い。
Ⅲ-3
分離型は海外メーカーがつくることが多い(日本に契約した製作所がある場合もある)。特許の関係で海外メーカー作成主導傾向になる。一体型は日本の技術により薄くつくることができるが、分離型は海外メーカー主導のためマインド的にも技術的にも、どうしても大きめ・厚めにつくってしまうという傾向がある。昔の米国車と日本車のサイズの違いのようである(今も日本車もかなり大きくなりました)。
Ⅲ-4
指定されたメーカーに出すので、画一的な作成方式にならざるをえず(うまく歯形がとれていないと、一体型の場合は微調整できるが、分離型は調整が厳しい)ので、どうしても大きくなってしまう。
Ⅳ 上下顎一体型も分離型も、閉塞性睡眠時無呼吸に対する効果はほぼ同じとの報告がある。
Ⅴ サイズが大きいため、装着時の口元の膨らみ(チンパンジー様)が、一体型に比べて少し大きくなるので、装着時に目立つ。
Ⅵ 口腔内に占めるスペースが大きいので、口内炎等ができやすくなる可能性がある。
マウスピース装着者のみなさまの声
「いびき治療にマウスピースが有効である」ということは、日本ではまだあまり知られていませんが、当院で実際に模型を使って「マウスピースで気道を広げることによって、いびきを解消できますよ」とご説明すると、みなさんご納得していただけます。 鼻から強制的に空気を送り込むCPAPは睡眠時無呼吸治療目的としてよく知られています。しかし簡便さで言えば、マウスピースに軍配が上がるでしょう。 治療効果についても、マウスピースをつけることで「前に1時間に30回あった無呼吸状態が3回程度に改善した」と、CPAPと同じくらいの効果を挙げた事例もあります。CPAPの使用に辛さを感じる方は、マウスピースを試されることを強くおすすめします。 当院で作成しているマウスピースの特徴は、あまり歯全体を覆うような形態ではないので、歯に強い力がかかったときには、自然に外れるようになっていることです。これはしっかり固定するタイプのものよりも、いびき治療を続けやすいマウスピースだと考えています。
仮止めの段階で、完成したマウスピースをご覧になるときには、みなさん「こんなものでいびきが改善するんですか?」ととても意外に思われるようです。 実際に装着すると、最初は違和感や異物感をもたれる方もいらっしゃいますが、1カ月程度観察期間を設けていますので、その間に慣れる方がほとんどです。ガムを噛んだり、物を食べることで自然に慣れていきます。あごの痛さを感じたり、ご家族から「あまりいびきが治っていないようだ」と言われるような場合は、再度調節します。 当院の患者さまで、「マウスピースはどうしても合わなかった」というケースはほとんどありません。
費用についても、当院は適応があれば保険診療でマウスピースを作れますし、一度作ればかなり長い期間使用できますので、とても経済的な治療法と言えるでしょう。 いびきのマウスピース治療はCPAPに違和感を感じている人も多い現状では、いびき治療の幅を広げることになります。マウスピースをメインにして、CPAPを補助として使っておられる方もいらっしゃいます。 いびきのマウスピース治療は患者さんに負担が少ない治療なので、今後ますます日本でも広がっていくことになると考えています。
確実で効果的なマウスピースの作り方
- STEP1
- まず呼吸テストをして、スリープスプリントの作成がいびき解消に効果があるかどうか確認します。
- STEP2
- 歯形をとります。
- STEP3
- 2回目の来診で、できあがったスリープスプリントを装着して、お渡しします。
- STEP4
- 1週間くらい、あごの関節が痛くならないかどうか、調子を様子を見ていただきます。
- STEP5
- 3回目の来診で調節して、だいじょうぶであれば上下のスリープスプリントを固定し、きれいに研磨してお渡しします。
慶友銀座クリニックでは、いびき治療のスリープスプリントを作成するためだけに歯科を開設していますから、耳鼻科で診療を行った後、すぐ院内の歯科に紹介して、検査から歯型をとるという流れになっています。 ワンストップでいびき治療のためのマウスピースが作成できる医療機関はあまりなく、保険診療で大学病院で経験を積んだ歯科医が患者様をそれぞれに合ったマウスピースを作成していきます。
慶友銀座クリニック名誉院長で歯科診療責任者を務める大場英俊は、スリープスプリントの研究が最も進んでいる東京医科歯科大学出身者であり、同大学や学会と緊密に連絡して、治療とスリープスプリントの作成にあたっています。
特別対談 矯正歯科医から見た「いびき治療」のこれから
高輪矯正歯科医院院長 金利鎬先生 × 大場俊彦 慶友銀座クリニック院長
矯正歯科から発達した「マウスピース療法」
- 大場先生
-
当院では、いびきの治療に「マウスピース(スリープスプリント)療法」を取り入れています。
そのため当院は歯科も開設しているのですが、その歯科の中でも高度な技能を必要とする、矯正歯科の経験豊富なドクターである高輪矯正歯科医院の金利鎬先生に、矯正歯科医から見たいびき治療の現状と可能性について、いろいろうかがいたいと思います。 ぼくは医学の世界で一番難しいのは、今ある機能をさらに高めるという治療だと思います。悪くなったところを取り除いたり、症状を押えるのはまだ簡単です。形態を改善し機能を高める、それが矯正歯科医の先生に求められている治療だと思います。すごく綿密さと精密さが必要な高度な医療ですよね。 - 金先生
- 矯正は、患者さまのクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を高めるのが目的の治療ですから、矯正が終わった後に満足していただかなければなりません。それは、とても気を使うところです。大場先生は患者さまの間の評判がとてもいいとうかがっているので、そこはぜひ、いろいろ教えていただきたいと思っているのですが。
- 大場先生
- ご実績のある金先生にそうおっしゃられると、たいへん恐縮です。それで金先生にまずうかがいたいのは、マウスピース療法についてのお話です。
- 金先生
-
はい、マウスピースは矯正歯科の世界で発達してきたものです。マウスピースによって下あごを少し前に出すという治療法はもともと矯正歯科の治療法で、それをあごが下がることで気道が下がってしまう無呼吸の治療に応用してきたという歴史があるんです。 マウスピースは矯正歯科の世界で発達してきたものです。
- 大場先生
- そうなんです。ですので矯正歯科というのは特殊な領域だとぼくは思っているのですが、勉強のためにアメリカの学会によく行きます。それで、アメリカでスリープサージェリーの臨床研究が一番進んでいるのは西海岸の大学や病院なのですが、西海岸では医学部と歯学部の教育を、両方受けている人が多いのに驚きました。
- 金先生
- 彼らは一般大学で学士号を取得後、歯学部で4年間の勉強をして、それから口腔外科に入って6年間の間に医師の免許も取りますから、ダブルドクターの人が多いようです。 つまりアメリカでは、日本とは違って医科と歯科の領域全体をカバーできるドクターが養成されています。
- 大場先生
- 頭頸部外科医でもあるぼくたちにとってとてもたいへんな手術なのは、あごに関わる領域手術だと思います。口腔外科の領域ですね。
- 金先生
- 治った後で噛み合わせがちゃんとできていなければなりませんから、歯科医の視点が必要とされる手術です。
- 大場先生
- そこは、患者さまのクオリティー・オブ・ライフのことを考えると、矯正歯科の先生にお願いしないとわれわれではどうしょうもない部分ですですから、耳鼻科のぼくたちから見るとすごく大変に見えるのですが、アメリカではいびきを治療するために、あごを切って前に伸ばしたり、あごを2つに切ってのどの奥に空間をつくるような大胆な手術を平気でやっていますね。それにびっくりしたのですが、日本では一般的にそうした手術ができるところは、まだありません。
- 金先生
歯科口腔外科の場合、顎顔面領域の先天的な奇形を扱ってきた歴史があるので、気道が閉塞したりあごが小さい場合は、再建手術を行うわけです。あごが小さければ大きくするし、歪んでいる顔は対称に治します。それによって呼吸機能も改善されるわけです。そうした手法を使って、気道が小さくなっている人を治すので、この分野は矯正歯科とかなりかかわりが深いんです。
いびき根治のためにはあごの形態改善も必要- 大場先生
- そうですよね。
- 金先生
- 例えばあごが小さくて歯並びが悪い方の場合は、歯を抜いただけではご本人が気にされている顔つきは治りません。そうした場合は口腔外科とのチームアプローチでして、積極的にあごを切って前に出すような手術をやっています。
- 大場先生
- ところが、睡眠時無呼吸やそれに伴ういびきの治療ということでは、アメリカでやっているような大胆な手術は、どこもやっていないんです。それはまだ患者さんの手術適応が非常に限定的なのと、患者さんに大変負担のかかる手術の割にはまだ手術の効果の評価が確立されていないこと、そういうこともあり日本ではまだ保険が適用できないという理由もあるのでしょうが、医科と歯科の領域をカバーできる先生がほとんどいないからでしょうね。
- 金先生
- そういう意味では、大場先生のような先端を追いかけておられる方と協力関係があるのは、患者さまにとってもいいことだと思います。 例えば慶友銀座クリニックにかかりに来られた方の中でも、いびきを根治するために気道を広げる手術が必要なケースで、なおかつ歯並びが悪い患者さまの場合は、矯正治療で顎顔面のバランスを取ってあげることが出来ます。
- 大場先生
- 当院にはそのような患者さまも来られますよ。実際少なくありません。 お子さんは要注意、アレルギー鼻炎は出っ歯や開咬の原因になる
- 金先生
- あるいはお子さんの時に、アレルギー鼻炎などがあって鼻呼吸ができなかった場合、口呼吸をすることになってしまいがちですが、日常的に口呼吸をしていると、口の周囲の筋肉を圧迫したり、舌や唇がまともに発育せず、それが表情にも現れるようになってしまいます。そうした機能不全が結果として、出っ歯や開咬につながるわけです。
- 大場先生
- 機能不全が形態の不全につながるということですね。
- 金先生
- ですから成長期に、しっかりした呼吸機能がないときちんとした顔の形はできないんです。例えば、慢性的な鼻炎をお持ちのお子さんなどは注意する必要があります。そこは矯正歯科医ではできないところなので、大場先生のような理解のあるドクターに診ていただいてしっかり、健康管理していただければ、お子さんの歯並びをよくすることもできるはずです。 扁桃腺が大きいお子さんも、顔の形に影響が現れることがあります。
- 大場先生
-
アメリカでは、無呼吸の症状のあるお子さんの場合、日本に比べて積極的に扁桃腺を取り去る手術をしていますからね。 お子さんは要注意、アレルギー鼻炎は出っ歯や開咬の原因になる
- 金先生
- 日本とアメリカの違いは技術レベルの問題、医科と歯科が分かれているという問題に加えて、保険など制度の問題にも原因があるようです。 しかし大場先生のお話をうかがって思ったのは、われわれ矯正歯科医がふだんやっていることは、そのまま気道を広げることにつながっているんだということです。耳鼻科と矯正歯科の連携は、睡眠の問題で悩んでいる人にとって朗報だと思いました。
- 大場先生
- そうなんです。睡眠時無呼吸の改善について、最近ではマスコミでもマウスピース療法に脚光が当たっています。最終的には、いびきの症状はあごの形に依存しているとぼくは思います。ですから、わたしのほうでも先生と連携させていただきながら、さらに高度ないびきの治療にあたっていきたいと思っています。
いびき根治のためにはあごの形態改善も必要
マウスピースの洗浄・お手入れ方法
1. 歯ブラシで水道水で軽くみがく
マウスピース(スリープスプリント)の手入れ方法は、使用後の朝、流水下で歯ブラシを使ってスリープスプリントの汚れを落としていきます。あまり硬い歯ブラシを使うと傷をつけてしまいます。傷がつくと汚れが溜まりやすくなるので、柔らかめか普通の硬さの歯ブラシを使いましょう。あまり強くみがくと、スリープスプリントが壊れてしまうことがあるので注意して下さい。歯磨き粉を使ってみがいてしまうと、研磨剤によってスリープスプリントを傷つけてしまう恐れがあります。さらには熱湯など熱を加えると、変形して合わなくなるため注意が必要です。
2. 入れ歯(義歯)洗浄剤を使う
歯ブラシで磨くだけでは汚れを完全に除去することが難しい場合、時には洗浄剤が有効です。種類は、水に溶ける洗浄剤や液、泡状までいろいろドラッグストアで売っています。洗浄剤を使用した場合は、装着前に一度歯ブラシを使って水道水で洗ってから装着することをお勧めします。
3. 就寝前の歯のブラッシングは、今まで以上にしっかりとしてください。
4. 犬やペットの近くに置かない
スリープスプリントをペットが噛んでしまい、バラバラに破損してしまう例が数多く報告されています。他の圧力により破損した場合は、保険の場合は一定期間(6ヶ月ほど)再作成できないので注意してください。またペットが舐めた場合でも、清潔の観点から、入念な洗浄をお願いします。
5. 保管方法
昼間に使用しないときは、乾燥と高温を避けて保管して下さい。保管の方法について材質上、乾燥により変形する可能性があり、非装着時には専用の容器(市販のプラスチック容器でも可)に水を入れ保管します。持ち運ぶときには水の代わりに、水を含ませたガーゼに包んでケースに入れて持ち運んで下さい。使用後に数年たつと、経年変化により、黄ばみが出てスリープスプリントが、変色することがあります。まずは問題ありませんが、主治医での定期受診はしたほうがいいでしょう。また喫煙者や口腔内の汚れが多い方は、黄ばみやすいです。
6. スリープスプリントの破損
スリープスプリントの破損等の異常が認められた場合は、すぐに使用を中止して、速やかにご連絡ください。
マウスピース(スリープスプリント)の質問コーナー
質問1:睡眠時無呼吸用マウスピースは海外に持参できますか?
問題ありません。マウスピース(スリープスプリント)は収納ケースにて簡単に運べ、当然電源不要のため長時間の移動の航空機内でも問題なく使用可能です。大きさは指輪のケース2つ分ぐらいで、女性用のバッグにも入ります。航空会社のCAさん達も、国際便では飛行機内の簡易施設にて睡眠をとることがあり、スリープスプリントを作成し、よく眠れて、まわりにもいびきで迷惑をかけることなく、時差ぼけも少なくなり、ついでに疲労も減ると大好評です。
質問2:治療すると顔貌がかわりませんか?
「下あごが前に出たまま(通称しゃくれ顔)にならないか?とよく質問をいただきます。下あごの骨は筋肉で吊り下げられている骨なので、必要以上に前にでることはありません。海外でのデータでは3年間で0.3ミリ前に出たというレポートを目にしたことはありますが、まず問題ないと思います。しかし睡眠時無呼吸の中には「歯ぎしり・くいしばり」の強いかたも多く、日中や睡眠時の歯ぎしり・食いしばりから下あごの位置が少し後ろに引っ張られていることがあります。それらの方の場合は、下あごが筋肉のよいバランス位置になることで、前歯が当たり奥歯が空くなど、咬み合わせの位置が今までと異なる場合があります。咬みあわせが変更すると咬合異常になり、顎が痛くなることがあります。慶友銀座クリニックでは、定期的な受診による口腔内チェックを専門医が行っています。
質問3:装着に慣れて、ぐっすり寝られるまでに何日要しますか?
個人差があります。全く問題になることなく使用可能な方もいれば、マウスピースの臭いが気になる(毎日洗いましょう)、知らぬ間に外していた(4時間ぐらいまずつけていればいいですよ)、夜何度か目が覚めてしまう(様子をみてみましょう。必要時に睡眠を助ける薬を処方します)、マウスピースがあたって痛む(歯や歯茎に当たる場合は調整をすることで改善が可能です。その他の場合は日中にマウスピースを付けて慣らす、夜間の使用の時間を少しずつ伸ばしていくなどの対処をお勧めしています)
質問4:鼻呼吸だけでは心配です?
本来は人間は鼻呼吸です。よくくせで鼻呼吸ができない、口呼吸がくせという患者様がいますが、これは解剖学的に鼻のつまりをおこしている場合がほとんどです。鼻づまりを解消すれば、自然と口呼吸から鼻呼吸に移行していきます。ひどい場合は鼻づまりを一時的に解消する血管収縮剤を含めた薬剤投与(長期に処方する場合は副作用として肥厚性鼻炎による鼻閉があります)や場合によりレーザーや高周波ラジオ波による日帰り手術をお勧めしています。鼻中隔弯曲がひどい場合(鼻中隔弯曲症)や鼻が曲がっている(斜鼻)は、関連病院で全身麻酔下での手術を行い、約5日間ほどの入院です。
質問5:マウスピース(スリープスプリント)の使用頻度は?
可能であれば毎日で構いません。慣れるまでの間、夜間数時間の使用、使用日の間隔を空けての使用でも構いません。継続して定期的に使用されるのが望ましいです。スリープスプリントはめがね使用と同じようなもので根治療法ではなく対処療法ですから、使用に伴いやがてスリープスプリントが不必要になるというものではありません。
質問6:スリープスプリント使用中に、唾が飲めなくヨダレを垂らしてしまう!
はじめは装着の刺激により唾液の分泌が促進されてしまいます。次第に慣れるケースが殆どで口唇も閉鎖するようになるためヨダレが垂れる心配はないかと思います。
質問7:最近スリープスプリントの臭いがきつくなった。
口腔内は数多くの細菌が存在し、夜間装着しているだけとはいえ、マウスピースを使用することで唾液により汚れていきます。使用後、毎日洗浄しましょう。
質問8:スリープスプリントをしてから食べ物が詰まるようになった。
スリープスプリントを装着した状態では、上あごの歯は内側(後方)へ、下あごの歯は外側(前方)へと力が掛かります。その影響で歯と歯の間に隙間が生じる場合があります。
質問9:スリープスプリントの治療効果
スリープスプリントのAHIが10未満になる患者の割合は、全体の40~50%、治療後のAHIが10以上ではあるものの、初診時のAHIから50%以上減少するのは、全体の50~70%という報告があります。また日本人の閉塞性睡眠時無呼吸症の患者さんに対する調査では、65%の患者において治療後AHIが10未満でかつ初診時の50%以上減少、41%の患者において治療後のAHIが5未満かつ初診時の50%以上の減少がみられたという報告があります。(参考 Fukuda T,Sleep Med 2014:15;367-370)
質問10:閉塞性睡眠時無呼吸症の合併疾患に及ぼすスリープスプリントの影響
閉塞性睡眠時無呼吸は高血圧を合併します。CPAPの治療と同様に、口腔内の装置(スリープスプリント)により閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんの血圧は平均収縮期血圧で2.1mmHg、拡張期血圧で1.9mmHgと軽度ではありますが有意に低下して、その降圧効果はCPAPとほぼ同様との報告があります。(参考Bratton DJ Lancet Res Med 2015;3;pp869-878)この理由としては、口腔内の装置(スリープスプリント)は、CAPAPと比べるとAHIに及ぼす影響は劣りますが(CPAPではAHIは90%近く改善するが、スリープスプリントでは60%程度の改善)、アドヒアランスが高い(CPAPよりもスリープスプリントのほうが患者はちゃんと使う、頻度が多く、長く使う)ことが、CPAPとスリープスプリントと同等の降圧効果をもたらしていると考えられています。しかし、閉塞性睡眠時無呼吸患者の心血管の危険度関連のバイオマーカーや、動脈硬化や血管内皮機能、さらには糖尿病に対してはスリープスプリントをつかった効果はまだ少ないです。(J JMA 149 No.2 pp277-280)
質問11:スリープスプリントを使った場合の副作用
短期的な副作用は唾液が多くなる又は唾液が減少することがあります。歯や歯肉の疼痛・違和感も報告されます。他に朝起きたときの一過性のかみ合わせのずれ(咬合異常)、筋や顎関節の違和感です。(Hamoda MM,Chest2018,153:pp544-553)これらの症状は一時的なものであることが多く、スリープスプリントの使用になれてくると消失してくることが多いです。また長期的な副作用では、歯の移動とそれに伴う咬合の異常があげられます。慶友銀座クリニックでは、当院で作成したスリープスプリントを装着している患者さんには定期的な受診をすすめて、睡眠時無呼吸の状態及び噛み合わせ、装置の劣化等をチェックし、副作用がなるべくおこらないように診療をしています。